吉田美保子の some ori ノート

9通目のメルマガ 【大事な道具号】

2018.02.19

染織吉田のメルマガ、《 some ori 通信 》にご登録いただき、ありがとうございます。

こんばんは。お元気でいらしゃいますか?
先日は旧正月でしたが、この時期、必ず梅が咲きますね。自然のカレンダーはすごいなあと思います。いい香りが、冷たい風に乗って、ふっと届くのが、この季節ですね。

9通目のメルマガをお届けいたします。今日は、ある機の道具の話です。

《 目次 》

1. 織り伸子

2. 影山秀雄さん

3. 機料善

___________

1. 織り伸子

機の道具の一つに、織り伸子(おりしんし)というものがあります。人によっては、機張り(はたばり)、幅出し(はばだし)と呼ぶ人もいます。竹の両端に針がついているものです。

どういう目的の道具かと言いますと、織っている時に、布に張って、織り幅を一定にするものです。これをつけないと、布幅が縮んでくるのですよ。糸の太さなどの条件によりますがね。織りやすくもなります。何気ないけど、大事な道具です。

何でただの伸子(しんし)ではなく、織り伸子(おりしんし)と呼ぶかというと、ただの伸子と言えば、完全に織りあがった布を、湯通しをして張る時に、やはり布幅を整える目的で使う道具の方をさすからです。布の幅出しという目的は一緒で、竹の先に針がついているという点も同じですが、別物です。

私はこの織り伸子を、3種類持っていて、布幅によって、また布の厚みによって使い分けています。

今、織っているのは九寸帯なのですが、実は九寸幅、久しぶりに織ってまして、したがって、織り伸子も、しばらくぶりに九寸幅用のを使っています。同じような糸使いで、一尺幅の着物を織ったばかりです。

それで実感したのですが、この九寸幅に使う織り伸子、あまりに無骨で、うわあ、こんなだったかなあと、、、。持っているうちで、一番の古株なんだけどね。

最近愛用している、一尺幅の織り伸子のエレガントさが身にしみました。昔はものを思わざりけり。

 

2. 影山秀雄さん

この一尺幅の織り伸子は、染織家の影山秀雄さんが、自ら制作されて、売ってらっしゃるものです。3年ほど前に入手しました。今回、図らずも使い比べるような形になって、改めて、影山さんのものの良さが身にしみたというわけです。

影山さんの織り伸子のよさ、どこにあるのでしょう?

まず、軽いです。竹を薄く削ってあります。軽いと布に与える影響が少なくてすみます。そして、しなやかです。適度なしなりがあります。絹の布にそっと張力を与えます。力任せにぐぐーーっと伸ばすではなく、竹のしなりで、柔らかく伸ばします。

そして、先についている針が短く、角度が絶妙。織ったばかりの布に、すっと入って行く。刺さるといいうより、入るという感じ。九寸用のは長い針が、「ブスッ」と突き刺さるのですよ。生まれたての布に「ブスッ」と刺し、ぐーっと広げるの心苦しい。痛そうだもの。

それから、針以外は金属を一切使っていない。長さの調節、九寸用のはネジで止めるけど、影山さんのは、竹製のタボ。二本の竹を合わせるもの、革のバンド。九寸のは金属です。これ、実感として、やはりいいと思う。

何より使ってて気持ちいいです。こういう道具で織ると、こういう織物になると思います。私の心もこうであれば。

 

3. 機料善

影山さん作の道具は、お店に置いている訳ではなく、通販もしないそうなので、ご縁がなければ買えません。東京では近々、TEORIYA さんで公開講座を開かれるそうなので、直接ゲットするチャンスです。そのあとは4月に奈良ですって。ご興味の方、ググってください。

私が、影山さんの道具がいいなあって思うのは、影山さんご自身が、経験豊かな一流の織り手であって、まずはご自分の織りのために道具を作られているという点です。この道具が与える影響は、糸にはこうで、布にはこうで、織り手の体にはこうでって、全部を知り尽くしていらっしゃる。

で、実は、恥ずかしながら、この織り伸子も、ここまで素晴らしいとは、思ってなかった。調子よくは使っていたけど、布に掛かる負荷を最小にしているとか、針が長いと自分で引っ掛けるおそれがあるとか、考え抜かれて作られてるとは、気づいていませんでした。

その上、姿が美しいのです。本当にエレガント。影山さんは、ご自分の作った道具に「機料善」(きりょうよし)と名付けていらっしゃいます。少々オヤジギャグぽいネーミングがほのぼのだなあ。

*織りをやってない方には、織り伸子がどういう形態か、想像しにくいですよね。ブログの方に写真載せました。よかったらご覧ください。

http://www.someoriyoshida.com/?p=4348

1枚目の写真、上が影山さんの機料善、中が九寸帯に使ったオールマイティーの古株、下の西陣で使われているものです。長さ違いでたくさん持ってます。

2枚目の写真で、機料善の竹の薄さ、しなり、お分かりいただけると思います。竹製のタボも見えてますね。

___________

染織吉田のメルマガ、《 some ori 通信 》9通目のメルマガをお読みいただき、どうもありがとうございました。

ご感想、ご意見ございましたら、このメールに返信する形でお送りください。

配信停止をご希望の方は、タイトルを「配信停止」として、このメールをそのまま返信してください。

これからも、some ori や、きものや、モノ作りを通して、あなたさまとご縁を育んでいきたいと思っております。

どうかよろしくお願いします。

___________

きものと帯の注文制作

染織吉田 吉田美保子
http://www.someoriyoshida.com

メルマガ

カテゴリー