これは、新宿御苑のクールな呉服屋さんに注文いただいて作りました。
お召しくださったお客様にお会いしたときの驚喜は忘れられません。まさにミューズが降臨したという感じ。絵羽だったときの一億倍よかった。着物はお召しの方に仕上げを託せるアートだなと思った。着物を織るということは何と面白い仕事なんだろう。
どんな着物を織りたかったかというと、大理石の宮殿。白く美しい鉱物の構造物。冷たく、シンとした白。そこにミューズがたたずんでいる。
2007年にあった大きな出来事。スペシャルな糸を託されたのだ。
ある日、メールが来て、差出人の方のお母様が、人生のひととき、精魂傾けて作った糸をゆずりたいとお申し出くださったのだ。私のブログを見て、この人だったら生かしてくれるだろうと思われたとのことで、おどろくやら恐縮するやら。
そしてほどなく、糸がやって来た。美しい糸だ。幻が目の前に降りてきた感じ。
蚕の小さな卵を孵して、桑の葉をやり育て繭にして、繭になったら煮て座繰りで糸にして、八丁撚糸。藁灰で灰汁練りしたというとんでもなくスペシャルな糸。
この最高の糸を生かせるか、これは試されるなと、きりりとした。
水谷ルリ子さん、私は、あなたの糸を生かせているでしょうか?
この糸のおかげで、織とは何かってこと、もう一段深くもぐれたのではないかと思っています。
写真はこの糸のみで織った作品の一例。クレー帯シリーズです。
糸のよさをいかに生かすか。おのおの主張がある色味をあえてぶつけてみた。
クレー帯の面白いところのひとつは、前帯を右手、左手どちらにするかでガラッと違うこと。写真下段の真ん中と左、同じ帯の右手、左手です。ご注文くださった方から、「ほんとに素敵で、つかえる帯ですね。ますますかわいくなりました。」とメールいただきました。使いこなしてくださっていて、とてもうれしい。
「思わず手を触れたくなる、生まれたての水」(着尺) 涼やかに、軽快に、着やすいように。さらっとしたお着物です。
「お出かけ」(着尺) 思わず出かけたくなる、フットワーク軽くなりそうな着物です。
「経緯諸紬(たてよこもろつむぎ)」(着尺) 最大の特徴は、緯糸はもちろん経糸も全て、ふっくらとした真綿紬糸だということ。経糸は一本糊付け。植物染料(ヤマモモ、ロッグウッド、ヤシャ、スオウ)。軽くて柔らかい真綿紬のよさ、出てますよ。
「こちらも経緯諸紬」(着尺) 緯糸に入る白い線は一部絣になってますので、動きがでます。地の糸も、太さや作り方、染めの濃淡を変えて、経に3種類、緯に9種類です。シンプルなんだけど、一筋縄のシンプルじゃないよ。
「隣の写真のアップ」 すらっとした美しい方で、大変お似合いです。 着こなすなあ。うらやましい。染料は、ヤマモモ、ロッグウッド、ヤシャブシ、スオウ。
「ディテールです」 糸のよさ、伝わりますか?この方に6年後に再会しました。この着物、どこに着て行っても、ほめられるって!
「お姉さんのショール」 ご注文を受けて織りました。姉妹の方注文制作一枚ずつ。それぞれ個性がくっきり。これはお姉様のです。外国旅行のお供になさると。きれいな冷たいパステルカラーです。
「守るショール」 手織りの布は外界からの雨や風や嵐や寒さの攻撃からあなたを守ります。内なる温かさも守ります。そして外からも内からも、美しさと華やぎをふんわりプラスします。
「草木染めのショール」 最近(2013年)は酸性染料も使うけど、この時は草木染めに夢中だった。これもすべて植物染料。
「しっかりのショール」 薄地だけど、緯糸に真綿紬糸も使っていることもあり、糸がしっかり組み合わさり丈夫です。丈夫さは平織りの良さでもあります。使い倒せるタイプです。
「私、こういうの作るの本当に好き」 別に用途はないけど。
「長い長い道程」 織り続ける。