お着物お召しの写真は、2012年に撮らせていただいたものです。織ったのは、2005年。7年後も大切に宝物としてお召しくださっていてとてもうれしかった。新婚のだんなさんと会場にお越し下さった。輝いてたなあ。
私、この方に、「着物、作ってもらいたい」って依頼を受けたとき、すごくビックリした。まだ独立開業して間がなくて経験が浅かった。注文の受け方が分からず、まごまご。そのときなんと、この方のハンドルネームしか存じ上げず!(信じられない)
後日メールを差し上げて、詳しく詳しく、どんな着物がお望みなのか伺った。出てきたキーワードは、「近くで見たら縞、遠目に見たら無地」、「シンプルであっさり、メリハリきかせない中のメリハリ」、「袋帯も締める」などなど。
そのメールの行き来で、どんどん私の頭はクリアになって行った。お召しの方は、ちゃんと、自分が欲しいもの、似合うもの、分かっておられる。作り手は、それを上手にお聞きして、引き出して、形にするのが仕事なんだ。
糸は、経糸にも一部真綿を使いふっくらと。緯糸は真綿がメインだけど、座繰り糸も使い、さらっとした感じも狙った。
染めは、フクギ、ヤシャブシなどの植物染料。経縞の白の部分も染めてます。細いグレーを一本入れてるのがミソ。
これが記念すべき、クレー帯の第一作。
パウル・クレーの「ポリフォニーに囲まれた白」という絵を織りたくてやってみました。どうすれば出来るのか、まったく分からなかった。でも出来ると確信。手探りでとにかく作った。
クレーの水彩絵の具の透明感。透明同士が複雑に交差しあう。強い色で決定しちゃうんじゃなくてベビーカラーを積み重ねる。それによって現れる少ーし特別な世界観を表したかった。
緯糸は絣にしてます。黒っぽい太糸は織ってる途中で糸を換えて入れてます。
染めは全て植物染料。
左上の写真はタイコ部分。右は織っているとき、黒い糸を入れているところです。織っている時から、すごくきれいでした。
左下は、お締めいただいているところ。優しい感じですてきでした。
「墨染めのクレー」(九寸帯) クレー帯は、その後、いろいろに展開しました。これは墨染め。墨を絹糸に定着させるのに、試行錯誤を繰り返しました。墨染めは、時を閉じ込めたような感じで面白かったです。
「変形クレー」(九寸帯) この帯を締めてくださっている方から、メールいただきました。 「帯の力が着手を幸せにしてくれているのは間違いなく~」との過分なお言葉!ひゃっほー!
「左の帯のタイコ部分」 すがすがしい澄んだ空気を深呼吸。そんなイメージで織りました。締めいていただいて、ピタッとフォーカスが合った。
「三寸四分の帯」(特別な帯) これは注文いただいて織りました。前幅が三寸四分と少々細いのです。半幅帯(前幅約四寸)でもなく、角帯(前幅約2寸5分)でもない。この方独自の特別な帯です。対丈(ついたけ)のお着物を作るというプロジェクトの一環だったのだけど、帯の制作に指名していただけて光栄でした。
「アタカス、クリキュラ、カンボウジュ、タッサー、赤城、栗、ぜんまい、水撚り、玉、真綿紬」(九寸帯) これ、全部この帯に織り込まれてる糸の名前なんです。色数をおさえて、でしゃばり過ぎない。凍てついた大地の中で、豊かな豊かなほっこりした土ができていく。そんなイメージの帯です。染めは植物染料。
「苦し紛れ」(九寸帯) 白状すると、これは苦し紛れに生まれた帯だ。色が決まらず、鮮やかな草木染めを鉄媒染で押さえ込んだ。が、そんな私の苦い思い出などどこ吹く風で、こうやって、大切に愛情を持って締めていただいている。とても締めやすく、合わせやすいって。よかったよ~。 私が苦しもうが、手抜きしようが(しないけど)、よければいいんだ。よいと言ってもらえるものをたくさん作ろう。
「蜘蛛の糸」(ショール) 極細絹糸、結構すきなんです。これは蜘蛛の糸をイメージ。
「木綿のうちくい」 うちくい(風呂敷)展の出品作です。木綿を茜と藍で染めました。昔、山陰では産湯の湯上げに、藍と茜で染めた木綿を使ったと知って、大切なものを包むものを織りたいと。
「絹のうちくい」 これもうちくい展の出品作です。品のある包む布になった。袱紗にいいね。
「プリプリ」(クッション) まるまるプリプリしたクッションを作った。
「ワン!」
「ツー!!」
「スリー!!!」
「はーと♡」
「紐のようなもの」 経糸の本数を少なく整経しますと、こんな細い紐が織れます。
「これなーんだ」 織りは何でも織り込めるのが面白いんです。
「色見本みたいな」 布を染めて、それを切って、織り込んだオブジェ。
「深海魚みたいだ」 染めて、切って、織って。
「この道」 織って織って、長く長く。