2009年は3月の春分の日から、銀座もとじさんで個展を開催しました。
このお召しのお着物は個展の出品作で、実はとてもチャレンジングだった。暗中模索の果てに出来た作品。これでいいのか、着物としてどうなのか、着姿は美しいのか、お召しになる方を輝かせることが出来るのか、、、、深く深く悩み、もちろん突破口など見つけることも出来ず、突破するためにがむしゃらに作ったようなものだ。だから、とても自分本位かもしれない。人の役立つのが仕事だとか、うそぶいてるくせに。精一杯やったというのだけが真実だ。(精一杯やるだけなら趣味だって出来る)
このお方は、個展会場へいらっしゃって、このお着物を気に入って下さったようだった。気に入って下さってだけで、私としてはビックリ。(実はすべてに自信がない私。)後日、決めて下さったって連絡が来て、私は心底おどろいた。で、ずーっとずーっと心配は続いた。もしかして後悔されてるのじゃないかしら???
で、2回目のもとじさんでの個展に、このお着物でお越し下さったときの、私の驚愕は計り知れない。
うっわーー!輝いてる。あの苦悩の果てが、こんなにも輝かせてもらってる!
着物は着物になってしまえば、作り手なんて関係ない。それでいいと思う。
制作したときのイメージは、張りつめていた空気がほんの少しゆるむ。コチコチの氷の表面にうっすら水膜。霜柱のギザギザも少しだけ油断。そのゆるみの気配が伝わって、離れた所で、何かがちょっとだけ、ことりと動く。
使った糸は、座繰り糸、真綿紬糸。植物染料(ヤシャ、ロッグウッド、ラック)、顔料。ブラッシングカラーズ。
この帯もご注文いただいて織った帯。遠方の方でお会いできなかったのだけど、いろいろやり取りして、何を望んでらっしゃるか、合点が行きました。それはこの方が、自分の好みとか、きれいだと思うものなど、精一杯伝えて下さったから。
どんな感じをきれいと思うのかってことを私に伝えるために、小さな空き箱を送って下さった。たぶん、香水か石鹸か、そういうものが入っていた、ペールブルーでアイボリーホワイトが浮き出たデザインの。それがものすごくありがたかった。「分かった」と思った。
私はこの方の想いを整理をして、具現化しただけ。物作りは、自分一人で出来るもんじゃないんだってこと、教えてもらった大切な作品です。
納品した直後、すてきなメール、いただきました。抜粋引用させていただきます。
「糸が、きらきらしているのでびっくりしました。
ふっくらつやつやしたきれいな糸ですね。
染色は澄んだ色、デザインは落ち着いて響いてきます。
とても気に入りました。
締めたらどんな表情がでるんだろう・・と早くも妄想しています。
希望したイメージをつかみ具現化する、しかも発注者側に寄り添ってくださるスタンスは私のような初心者には申し訳なくどきどきしていましたが、メールと電話で丁寧に優しく接してくださって、わたしの希望を一生懸命辛抱強く聞いていただきました。
吉田さんの優しさに励まされ、やりとりを重ねる中で「イメージを追求し共通の認識はこのあたり☆」と探れたような気がしました。
なかなか稀有な良い経験ができて楽しかったです。
わたしは吉田さんに太古のシャーマンなイメージを持ちました。
そして心身ともに使って染めて織っていただいたことがわかりました。
大切にいっぱいいっぱい締めて長く伴走していきますね。
とても美しい帯なので仕立ても心を落ち着かせて頼むことにします。
吉田さんに会えて(いや、実物には会っていないが 笑)良かったです。
依頼してからの月日は幸せな気持ちで過ごせました。
今度はこの帯に命がふきこまれ、わたしに添ってくれるのでまた幸せの予感がします。
どうかお身体を大切に、吉田さんのファンの皆さんのためにも。
そしてなによりも源泉である吉田さんが幸せでありますようにと願っています。
澄んだ美しい素敵な帯を届けてくださって本当にありがとうございました。
感謝の気持ちを込めて○○からお礼申し上げます。」
「ビーナス誕生」(絵羽) もとじさんから、個展のお話をいただいた時、どんな世界観で包もうかって考えた。そしたら、ボッティチェリのビーナス誕生が浮かんだ。ビーナスが、海の中から、今、生まれた。今、風が吹いた。そして今まさに地上に女神が現れた。この女神をどんな布で包もうか。その答えがこの着物です。座繰り糸、真綿紬糸。フクギ、ヤシャ、アカネ、スオウ、藍。ブラッシングカラーズ。
「スプリング・スプリング・スプリング」(絵羽) 着物で大事なことは、高揚感だと思うのよね。御召しいただく方が、そういうお心持ちになって下さったらうれしい。私も高揚して夢中で作りました。
「春の印象抽象文様ブラッシングカラーズ着物」 左の着物のディテールです。使った糸は、座繰り糸、真綿紬糸、玉糸。染めは植物染料(ヤシャブシ、フクギ、カテキュー、クチナシ)。ブラッシングカラーズは、植物染料です。
「スカイブルー/ディープレッド」(九寸帯) 「スコンと抜けた、透明で冷たい空。そこに未確認飛行物体が唐突に現れる。その物体は、深い赤い漆塗り。質感はあるけど、重力はない。スカンジナビアンの空にジャパン・レッド。唐突でアンバランスな感じ」座繰り糸(水谷ルリ子さん作)。植物染料(コチニール、スオウ、ヤシャブシ、ロッグウッド)、酸性染料。緯絣。
「スプリング・シーショア」(九寸帯) 「She sells sea shells by the seashore. The shells she sells are surely seashells. So if she sells shells on the seashore, I’m sure she sells seashore shells. 春の海岸線。彼女が売っているのは、海の貝殻」座繰り糸。強撚糸。植物染料のブラッシングカラーズ。
「スプリング・フェスティバル」(九寸帯) 「春の明るい空気。時間は午後1時。着飾って集う人々。弾ける笑顔。シャンパンが次々に抜かれる。クラッカーが鳴る。揮発性な感じ。シャボン玉が弾けたその瞬間のような」使った糸は、玉糸、座繰り糸、金糸。染料は植物染料(コチニール、スオウ)ブラッシングカラーズ。経糸の撚りが甘めでふんわりした感触です。
「ちょっときつめの春の日差し」(九寸帯) 「春爛漫。日差しがどんどん強くなってくる。大通りの店々に日差しよけ。そうね、コペンハーゲンのカフェ。炭酸ガスのお水をまず頼む。北欧の明るい日差しのインプレッションを、日本の藍染めと墨染めでエクスプレッション!」手びき座繰り糸。藍。墨。
「ビバ!モンドリアン!」(九寸帯) モンドリアン、リスペクトです。先達のすごさ、ハッと気付くことがある。角膜がピンとする。その気付きを、ぐぐぐぐーーっと現代ジャパンのアーバンライフに引っ張って来る。使った糸は、玉糸、座繰り糸。染料はアカネ、ロッグウッド。緯絣。顔料のブラッシングカラーズ。
「うれしいメール」この帯を求めて下さったが、デビューさせたよとメールくださった。合わせるお着物をチョイスして(それも結城!総絣!)、帯揚げ、帯締めを新調してくださったと。エネルギーと愛情を注いで、帯を育てて下さってる。ありがたさにぼーっとして、泣きそうになる。使った糸は、玉糸、座繰り糸。染料はアカネ、ロッグウッド。顔料。緯絣。ブラッシングカラーズ。
「ワンダーランドの迷路」(九寸帯) 「その迷路の穴の入り口。(実際は帯のタレ先よ!)さあこの先、何が起こるか!ナビゲーターはもちろん、チョッキを着て懐中時計を持ったウサギ」座繰り糸(水谷ルリ子さん作)。コチニール。スオウ。ヤシャ。ロッグウッド。酸性染料。緯絣。
「柔らかな光のピエト」(九寸帯) 「天井の高い広いバスルーム。古いタイル。窓。水の音。スチームが私を包む。それぞれにバラバラに自分の時間を楽しむ人々。天窓のすりガラスから午後の光がふんわり降り注ぐ。ピエト・モンドリアンへ捧げます」使った糸は、玉糸、銀糸。緯絣。染料は植物染料と酸性染料の併用。ブラッシングカラーズは顔料。
「静かな白の重なり」(九寸帯) 「音を消して、耳を澄ます。そのときにかすかに聞こえる初めて気付いた新しい音。その音が重なる。ずっと追っかけてる、クレーの「ポリフォニーに囲まれた白」。その白を静かに静かに響かせ、重ねる」手でひいた座繰り糸。(水谷ルリ子さん作)ログウッド、ヤシャ、コチニール、クチナシ、酸性染料。緯絣。
「リズムとメロディ」(九寸帯) これ、ご注文で作りました。シンプルだけど、スッキリしててよかったと思う。この方のイメージで、余計なことをしないと決めた。しかし、シンプルにする方が度胸がいる。あくまでクールに。それがこの方の温かさを引き立たせる。
「左の帯締めてくださってます」 ご注文を受け、打ち合わせしたとき、この写真でお召しのユウナのグレーのお着物を持参されて(まだ反物だった)、この着物に合う帯をとのご依頼だった。それに向かって Let’s GO! 今、目の前にその組み合わせで来て下さって、ああよかったと思いました。
「クレーの五線譜」(九寸帯) 楽譜って暗号みたいだ。楽譜も暗号も分からないんだけどね、みててワクワクする。水谷ルリ子さん作の座繰り糸。緯絣。酸性染料。ブラッシングカラーズ。
「ジェリービーンズ・スクエア」(九寸帯)「ジェリービーンズ、お菓子の袋から、こぼしちゃった!床にカラフルな夢が転がる。そこにカクカク。ジェリービーンは角にぶつかり方向不明。ますます転がる」植物染料(ヤシャブシ、シブキ、クチナシ、ゴバイシ、ロッグウッド、サクラ)と酸性染料の併用。ブラッシングカラーズは植物染料。座繰り糸。銀糸。
「ローリンジェリービーン」(九寸帯) 織りたいものは透明な空気。そこに弾けるジェリービーンズ。銀糸が全面に入っていて豪華です。パーティーシーンにも締めてってー!
「虹のプリズム」(九寸帯) 織りたかったのは、弾ける光。虹から降り注ぐ光。どんどんあふれ出る。植物染料(アカネ、ヤマモモ、クチナシ、ロッグウッド)、顔料のブラッシングカラーズ。経糸は水谷ルリ子さんの座繰り糸。緯糸にはワイルド感を残した半練りの座繰り糸を使用し、水谷さんの繊細な糸に、湖面のさざ波のような表情を加えた。銀糸を使って光を表現。この帯は名古屋の呉服店に納めまして、「美しい染織だと思います」とお言葉いただき感激。
「透き通る」(ショール)
「光る」(ショール)