「モルダウ IV 17歳」(モルダウ四部作の最後の作品) 大きな城だ。プラハだ。ここまで来たんだなあ。どこに行くんだろう。
この着物は、銀座もとじさんでの第二回目の個展「中世の秋」に出品したもので、個展の案内状にも使ったものです。この時のサブテーマは、「モルダウの流れ」でした。
モルダウ川の上流の山の奥の奥、水蒸気が水滴となり、水滴が集まり水になり、水が小川に、小川が川に、川が大きな流れになります。また、この河はその流域の人々の生活や自然を写します。
私は、空想の中で、水滴カプセルにカメラを持って乗り込み、川の流れに沿って旅をしました。その1つ1つの風景を、作品に織り込んだと言うわけです。
そしてこの「モルダウ IV 17歳」がその集大成、モルダウ川がやっとプラハの街に流れ着いたところがこの着物です。水滴カプセルに乗った私は17歳。大きなお城だなあと街を見上げています。
ほっと一息しつつ、これから続く海までの長い旅に想いを馳せているのです。
糸はぐんま200生繭座繰り糸と真綿紬糸。染めは植物染料(アカネなど)と酸性染料の併用。ブラッシングカラーズ。
この着物は、着物ライターであり、「熊本ゆかりの染織家展」の企画者、安達絵里子さんにご注文いただき織りました。毎日を着物で過ごす着物通の方です。それでも織りの着物の注文制作は初めてのことだと。どんな着物にするか、何回も何回もやり取りしました。どんなお着物にするかって話しは、自分にとって大事なものは何?って話しに発展しました。
やり取りの中で、安達さんから、目指すイメージが出てきました。
「可愛い我が子の好きなブルー系と私のイメージのピンク系。その色のあわい。 朝焼けの空は水色だけどあたたかくもえるピンクを含んでいる。 いえ、ピンクにもえる空から水色の爽やかな朝が生まれてくる。」
それを受けて、私が考えたイメージは以下のようなものでした。
「安達家のこどもさん、お父さん、お母さん、3人が澄みきった空気の中、 近くにある小山から、遠くの山から出てくる太陽を見つめている。 こどもは ”なんて明るいんだろう、どうして暖かいんだろう?” お父さんは、”いつまでも3人でこの景色を、覚えていたいな” お母さんは、”3人が元気で、いますように。この子がこの太陽のように明るく元気で、やさしく育ちますように” 遠望の山は、太陽の黄色をはらんだピンク。その背景には寝起きのまどろみをすこし含んだちょっぴり濃いブルーを交えた空色。織り込むメッセージは、母の愛。ネーミングは、”Good Morning Koh !”」(コウとは安達さんの息子さんのお名前)
これでイメージは決まりました。それからは、イメージを膨らませ、かつ、絞り込み、実作業になります。イメージがしっかり決まると、後は肉体労働です。
絵羽になったものを「第一回熊本ゆかりの染織家展」に飾っていただいた時は感無量でした。
その後、下前の衽(おくみ)に、安達さんのお母様が、お孫さんの名前であり、着物のタイトル、「Good morning Koh」を刺繍して下さいました。(下段左の写真)
糸はぐんま200生繭座繰り糸。染めはピンクとブルーのグラデーションで22種類です。(下段左の写真)
この着物は、ご注文くださった方との、幾多の言葉や思いや画像のやり取りからうまれました。お話もしたし(我が家にも3回お越し下さった)、たくさんのメールが行き来しました。
ご注文主さまは、有名な着物ブロガーさんです。とても詳しく書いて下さってます。「シスレーの居る風景」で検索して下さい。「シスレーの居る風景、お誂えの記録」っていうカテゴリーも作って下さっているのですよ!
シスレーとは、アルフレッド・シスレー。19世紀のフランスの画家です。水辺の光あふれる風景を多く描いてます。この方のシスレーに対する思いを形にしたかった。
水のきらめきを表現したく、全体的には思い切った大胆な柄を随所に入れてます。でもおはしょりや内揚げ部分、また帯の下にあたる部分は控えめな愛らしいピンクにしています。それは何と言ってもここは、このお方の体(特に子宮や臍下丹田)を守る部分だから。それでアカネで、品のあるピンク染めました。アカネって、日本女性を美しく見せ、また守る色だなんて、勝手に思っているものですから。
この着物が、この方をやさしく包み守る一枚になりますようにと願いをこめて。
糸は経糸には蚕からこだわった座繰り糸。緯糸は真綿紬糸。染めは植物染料(アカネなど)が中心でいろいろ。ブラッシングカラーズ。
なお、八掛は染色家の仁平幸春さんに特注され、合わせて帯も制作された。(お写真はその帯を締めて下さってます)仕立ては横浜の山本きもの工房さんに頼まれた。尊敬する先輩方とコラボした形になったのもとてもうれしかったです。4人で作り上げた作品となった。
この帯は、シリーズで二本作りました。タイトルを「ウォーターボーイ」「ウォーターガール」としました。こちら「ウォーターガール」。
納品するとき 、日記風お手紙をつけたのですよ。「ウォーターボーイ」と「ウォーターガール」両方に。奄美大島の中学校の水泳部の男の子と女の子って設定で。初々しい心をそのままに表現した帯です。
締めて下さっているこのお方、とてもお似合いです。きっと、こっそり持ち続けている少女の部分と呼応したのかな。
糸はプラチナボーイ。染めは植物染料と酸性染料の併用です。ほんの少々ブラッシングカラーズもほどこして、メリハリつけてます。(下の写真、左にいるのは全身自作の私です)
2014年のお正月に、素晴らしく美しいお写真が届きました。完璧な美しさです。お写真を一目みたとたん、ノックアウトされました。私の織った着物が、こんなにも大切にしていただけて、一緒に羽ばたかせてもらって。じーん。感無量です。
あまりのうれしさと、この方のお優しさにボーッとしてしまいました。
このお着物は、「モルダウ・バッハ」。2010年に織りました、モルダウ・シリーズの三作目。モルダウ・ミスト、ドロップ、バッハ、と続き、最後の一作が「モルダウ」です。
「バッハ」とは、「小川」という意味で、大河モルダウ川が、まだ「ちょろ ちょろ ちょろ ちょろ」と流れる小川だったころをイメージしています。静謐な感じが、このお方のイメージにぴったり合ってますね。
この「モルダウ・バッハ」に合う帯を探してくださって、締めて下さってます。お写真に添えてくださったお言葉、
「美保子さんが織り上げられた作品と出合えたことを心より感謝します。いついつまでも大切にしていきます。」
本当にどうもありがとうございます。
経糸は、ぐんま200の節多、玉繭の生繭を2割入れてひいたものを使ってます。いい糸なんだけど、すごく織り難かった。糸がくっついて綜絖が開かないのです。養生しながら慎重に織り進めました。染めは植物染料と酸性染料の併用。ブラッシングカラーズは顔料。
「モルダウ・ミスト I うまれたて」(着尺) 「遠い遠いボヘミアの森の奥。何だろう 。どうなるんだろう。」 深いアイボリーホワイトの着尺です。微妙な色違いの糸を何種類も織り込んでます。白と言ってももちろん染めています。植物染料も酸性染料も使っています。経糸は水谷ルリ子さん作。緯糸は真綿紬糸と座繰り糸。
「モルダウ・ドロップ II 生後一ヶ月」(絵羽) 「ほら、くっついちゃったよ。みんなくっついてきたよ。しずくになったよ。ポトン。」 水滴が生まれた瞬間を織りました。これは経糸も緯糸も国産繭の座繰り糸です。とても軽くてさらっとしています。糸はぐんま200の生繭座繰り糸。いい糸です。顔料によるブラッシングカラーズです。
「Blue motif 300」(絵羽) これは、私の織ったショールを気にいってくださり、こんな着物が欲しいというご希望がご注文のはじまり。とは言え、そのショールをどう着物に展開するか、七転八倒しました。地のアイボリーホワイトもこの方にピタリと合う色味の白で、ああよかった。
「ウォーターボーイ」(九寸帯) これが、ウォーターガールのボーイフレンド、ウォーターボーイです。元気でちょっとシャイな水泳部のキャプテン。水滴が弾けるね!糸はプラチナボーイ。染めは植物染料と酸性染料の併用。緯絣。ブラシングカラーズ。
「デビュタント(はじめて舞踏会にデビューする日)」(九寸帯) 「ドキドキ ワクワク 私。ドキドキ ワクワク 彼。」 使った糸は、経糸が、座繰り糸(水谷ルリ子さんの手引き)。緯糸は、玉糸、金糸、生糸。染めは植物染料(タマネギなど)、顔料。ブラッシングカラーズ。縫い取り。
「ちょっとグレーな空」(九寸帯) 「いぶした銀色の空が川に映っている。ときどきキラッと光る。やがてやってくる真っ白な雪。」使った糸は経糸が座繰り糸(水谷ルリ子さんの手引き)。緯糸が座繰り糸(ぐんま200)。銀糸、生糸。ブラッシングカラーズ、縫い取り。
「プラハの石畳シリーズ[モーツァルト]」(九寸帯)「 ああここなんだ。ドン・ジョバンニの初演をした劇場。モーツァルトはここを歩いたんだ。」使った糸は玉糸。経糸は植物染料。緯糸は酸性染料。
「プラハの石畳シリーズ[初恋Ⅰ]」(九寸帯) 「いつも角で待ってる女の子。今日は決心したように僕に近づいた。」使った糸は玉糸 経糸は植物染料。緯糸は酸性染料。緯絣。
「プラハの石畳シリーズ[教会Ⅱ]」(九寸帯) 「着飾った人々。馬車で乗りつける。ステンドグラスが反射している。」ブラッシングカラーズと緯絣の響き合い、ハーモニー、賛美歌。そんな帯にしたかったのです。使った糸は玉糸。 経糸は植物染料。緯糸は酸性染料と植物染料の併用。ブッラッシングカラーズは顔料。
「パレード」(九寸帯) 「プラハの街をパレードが通る。みんな、みんな弾ける笑顔。」糸染めは植物染料と酸性染料の併用。ブッラッシングカラーズは酸性染料。緯絣。
「プラハの石畳シリーズ[フルーツ・マーケット]」(九寸帯) 「旧市街の市場。石畳の街角。行きかう荷車。林檎がころがった。」使った糸は玉糸。経糸は植物染料、緯糸は酸性染料。緯絣。ブラッシングカラーズは顔料。
「プラハの石畳シリーズ[初恋Ⅱ]」(九寸帯) 「遠くから見てる。それしかできない。」シンプルさに初々しさがかくれてる。使った糸は玉糸。経糸は植物染料、緯糸は酸性染料。ブラッシングカラーズは顔料。緯糸絣。
「ジェリービーン&キャンディ」(九寸帯) 「コロコロ転がるジェリービーンとスティックキャンディ。おいしそう、楽しそう。」ブラッシングカラーズ(植物染料と顔料の併用)。座繰り糸、玉糸、タッサーシルク、金糸。
「ビタージェリービーン」(九寸帯) ちょっとだけ渋い色味で。全通です。ジェリービーは帯いっぱいに、コロコロコロコロ転がります。座繰り糸。紙糸。銀糸。染料はシブキ、ゴバイシ、ロッグウッド、カテキュー、ヤシャブシ。顔料。ブラッシングカラーズ。
「さりげなくてカッコイイ締め姿」(締めていただいてる帯が吉田作) ここは八丈島。島の風土にこういう素朴でざっくりした帯が本当によくお似合いでした。旅先でしっくりなじむなんて、さすがだな。使った糸は、太めで生玉繭入りの座繰り糸。金糸。植物染料(アカネ、タマネギ、ヤシャブシ、ヤマモモ)
「ハーベスト・フェスティバル」(九寸帯) 「音がきこえる。楽しそうな話し声。おめかしして踊ってる。今日は特別な日。」 使った糸は、節が多い座繰り糸(生繭入り)玉糸、金糸。染料は植物染料、酸性染料の併用。
「コラボレーションで作った竹手さげ」 銀座もとじさんでの第二回の個展を機に、新しいチャレンジをしました。竹作家の吉田佳道さんのかごと、私の布を、高級婦人帽子作家の善林英恵さんに託して、新しい生命を誕生させようという試みです。これは、ひらめく旗のイメージを表現したと善林さんの弁。
「コラボ竹手さげ」 布地の細かく接ぎ合わせてフリンジ状にしている部分は水の漣を表現したと、デザイン縫製の善林英恵さんの弁。竹かご制作、吉田佳道さん。
「コラボ竹手さげ」 「パッチワークにした布は石畳の連なりを表してます。夕映えや月の光を反射しているパーツを時間を越えて寄せ集めてみたらこんな感じかもしれません」と善林さん。竹かご制作は吉田佳道さん。
「コラボ竹手さげ」 吉田佳道さんによる竹かごは、山路編みという編み方を多用しています。これは、黒竹と真竹と藤を使用。藤はふちの仕上げに使っています。とても丁寧で繊細な仕事です。デザイン縫製は善林英恵さん。
「コラボ竹手さげ」 「ヌメ革は時間と共に次第に焼けてあめ色に変化してゆきます」と善林さん。使い込んで行くのが楽しみですね。竹かご制作は吉田佳道さん。