ご注文いただいて織ったお着物です。遠方の方でお会いすることはかなわず、何度も何度もメールを交換して、この方の望みは何だってことと、この方をより輝かせるのはどういう着物かってことに、向き合ってきました。色見本や試し織りやスケッチ画をお送りして、ご意見いただいたり、、、、
一度お会いできそうだったのですが、東日本大震災が起き、実現しませんでした。お会いするチャンスは逃しましたが、私が震災後の時期をどうにか乗り切れたのは、この仕事が目の前にあったからです。毎日、機に向かうことでどんなに助けられたか、、、その点でも私にとって大切な作品です。
メールのやり取りの当初から、「水」というキーワードがよく出てきました。それからお顔映りのいい着物がお望みでした。全体は落ち着いていて、お顔の近くにくるところを、明るく元気にした。使った糸は、座繰り糸と真綿紬糸。植物染料と酸性染料の併用。ブラッシングカラーズ。
以下、いただいた二通のメールです。とても光栄です。
title: 涙が出ました
こんばんは。先ほど着物が届きました。余りに美しい織物に涙が出ました。
川平湾の水の青、敦煌壁画の天女の青などと想像のおもむくままに注文したのですが、実際にどのようなきものになりえるのか、全く想像できなかったのです。羽織った瞬間、水の匂いがしました。ほんとうに水の織物でした。
試し織をして下さった時から、どう転んでも素敵な着物になる!と吉田さんを完全に信頼するようになっていましたが、本当に素敵な織物にして下さいました。全体としては水なのに、どこか敦煌の砂漠の土の気配もするのです。
羽織ってみると、青なのに暖かく、顔映りが非常によく、私をきれいに見せてくれ、かつ暖かい何かに包まれたような感じがとてもします。吉田さんが私の為に心血を注いで織って下さった、その思いに包まれるのですね。自分だけの為に織られた着物、誂えの醍醐味ですね。
よく見ると随所に心配りが感じられ、楽しい秘密がいっぱい詰まっていますね。また糸ががとても上質で細くて光っていて、普通の紬の概念が当てはまりません。
前身頃の柄もピンクがかわいく、青は川平湾の水のように深く、位置がちょうどいいので、背が高く、細く見せてくれました。
やっぱりカジュアルよりコンサバに作っていただいて成功だったと感じています。観劇でも結婚式でも踊りでもいける、包容力のある着物ですね。9月末に◯の会があるので、絶対着ようと思います。
お値段なのですが、とても面倒な柄付けをして下さったのに…。これでよろしいでしょうか。豪華な訪問着にしていただいてしまったのに。
長くなりましたが、本当に嬉しかったのです。有難うございました。この着物に見合う人にならなあかんね~!
いつか着物を着て会いに行きますね!
感謝とともに。
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二通目
title: また涙が
お返事いただいて、また涙が出ました。ほんとです。
今日帰宅してから早速明るい光のもとで布を見ましたがほんとうにきれいなきれいな織物、天女の羽衣のように軽くて、私のために作られたのが奇跡だと思います。
「水が大地を潤し、人を潤し、天に昇華する、その循環の様子」お願いしておきながら私自身も分からなかった、「水の意味」ですね。そして川平湾と敦煌壁画が重なるんですね。
それでもこの二つの魅力が一つの織物に表現されているのが不思議でなりませんが…。
水の匂い、土の香り、砂漠の黄色い土、朝焼けの海、ピンクの花、紺青の海の底知れなさ、砂漠のオアシスの命の水…、
色々なイメージがはっきりと表現されていながら、さらにそれぞれが重なり合って響くのですね。吉田さんのお仕事はすごいわ~。
見ているだけでも美しい布ですが、またできれば美しい女優さんに着てもらいたいところでもありますが、不肖私が何度も着させていただきますね。踊りの先輩の舞台鑑賞や、南座の顔見世や、文楽や、どこにでも沿ってくれる着物ですね。
八掛、帯に関しては信頼している呉服屋さんに頼んでみます。八掛をきれいな色に染めてくれると思います。早めにお願いに行きますね。
自分をよく分かっている自立した女性でないとお誂えは難しいかも、と不安でした。イメージが定まらないため、吉田さんを悩ませたことと申し訳なく思います。でも今になってみると、これほど魅力的な織物を織っていただけた事が嬉しくてなりません。美しい光に包まれたようで、どのように着ても自然と私を輝かせてくれるに間違いありません。着物の力ですね。
また長くなりました。
これからも応援しています。
根を詰め過ぎないよう、自分もいたわって下さいね。
こちらは、ご注文を受けてお作りした、単衣のお着物。ご注文内容は、いろんな色が入っているけど、遠目には無地に見えなくもない単衣。好きな色は「みかん色」。
みかん色を考えるのは楽しかった。みかんには、甘さも渋さも酸っぱさも、いっぱい詰まってる。みずみずしくてビタミンいっぱい。
単衣が欲しいというご希望だったから、「単衣とは何か」ってこと、よく考えた。丈夫で薄くさらっと。不安感を残しちゃいけない。
丈夫な布にするのにまずは密度を上げる。織物の密度を決める筬って道具があるのだけど、それも60羽っての新調した。(60羽ってのは、1寸間に60の隙間があり、そこに2本ずつ糸を通すから、1寸に120本糸が通るってわけです)(今までは最大58羽までの密度を使ってた)納得いかず、59羽も続けて新調した。たった一羽の違いがこんなに大きいのかって思い知った。
糸も特別注文した。細目で撚りを強目に。注文制作は、本当に勉強になる。
そして何と、この方、このお着物をご自分で仕立てられたんですよ。ひと針ひと針。すごいなあ。(下段左の写真は、和裁を習われている「山本きもの工房」の展示会に出品されたときのもの)
久しぶりに再会して、心底ほっとした帯です。思い切って荒削りなブラッシングカラーズをほどこしたので、帯としての完成度がずっと心配でした。締めて下さってるところ、拝見し、ああ、、よかった、さすが締めこなして下さってる、、と感激しました。
このお方は、フレスコ画のアーティストです。ご自分が生み出すお作品のみならず、周りすべてにいい空気感を作る方なのだ。締めていただき、光栄です。
このお写真は、2015年の6月の梅雨の合間に撮らせていただきました。お単衣のお着物に、すっきりした帯締め、帯揚げがピッタリですね。
タイコの向こうにあじさいの葉が見えますね。この帯、あじさいの花みたいだねえって話しました。
「チャーミングブルー」(着尺) 「いつか見たよね、この空。 小学校だったかな。 友だちと一緒だった。 青い空よ!」使った糸は、座繰り糸、真綿紬糸、植物染料、酸性染料、経絣を入れ、緯絣もほんの少々入れることで、空の動きを表現しました。
「みかんの純真」(着尺) これは糸がめちゃくちゃ特別です。 経糸が、無撚りの座繰り糸なんです。無撚りだと織れませんから、極細生糸が一本絡んで生ます。座繰りのよさ、無撚りのよさが両方あり、生糸がきらっと輝きます。
「みかんの恋心」(着尺) これも無撚りの座繰り糸作品。 経糸、すごく複雑な縞にしています。 無地に見えるが、無地じゃない。染めは植物染料(ヤマモモ、アカネ、ヤシャ)と酸性染料の併用。
「グリーンマーブルスクエア」(九寸帯) 「イタリア北部。 大理石の石切り場。 碧き大理石が見える。 初夏の日ざしが、緑の大理石を少し白く照らしている。」 座繰り糸。糸染めは植物染料。ブラッシングカラーズは酸性染料。
「パーシモンスクエア」(九寸帯) 「それは秋。ちょっと深い秋。柿が秋空を家来に実ってる。甘いおいしい柿よ。」座繰り糸。糸染めは植物染料。ブラッシングカラーズは酸性染料。
「カラフル・ボックス」(九寸帯) こちらは、名古屋の呉服屋さんに求めていただいた一本。とても丁寧なサイトをお持ちで、この帯もご紹介いただいてます。うれしいような、恥ずかしいような文章いただき、やっぱりうれしい。
「かわいい 四角たち」(九寸帯) 「はじけ飛ぶ、太陽のような。目を奪う、はつらつとしたチェリーのような。フレッシュで、ちょっとシャイな新芽のような。そんな四角たちよ。」座繰り糸。糸染めは植物染料。ブラッシングカラーズは酸性染料。
「ゆりさんが締めてくれてる」 こちらは熊本の呉服屋さんの奥様です。拙作、お締めいただいてます。呉服屋のおかみさんにお締めいただくって緊張するけど、さすが締めこなしていただいて光栄です。「締めやすくって重宝してます」って!
「小さな四角たち」(九寸帯) スクエアシリーズは、楽しかったが、それは私が楽しむんじゃなくて、締めていただく方に楽しんでいただくこと。そう思って織りました。座繰り糸。糸染めは植物染料。ブラッシングカラーズは酸性染料。
「雪のひとひら」(九寸帯) しずかに雪がふっているイメージ。これ、ポール・ギャリコの本から拝借したタイトル。いい本なんだ。心に残る。ブラッシングカラーズ。緯絣。
「ブラッシング ブルー」(九寸帯) 荒削りな青が重なる。刷毛目を生かしたブラッシングカラーズ。緯絣も入って、リズミカルです。糸染めは植物染料と酸性染料の併用。ブラッシングカラーズは酸性染料です。
「ブラッシング・ブラウン」(九寸帯) ちょっと油絵ぽくなりました。テレピンオイルの匂いがしそう。染めと織りをガンガンぶつけた一作です。糸染めは植物染料と酸性染料の併用。ブラッシングカラーズは酸性染料です。緯絣も入れてます。
「八丈島サーキット」(九寸帯) サーキットシリーズのサーキットは、回路という意味です。電子回路とか、思考回路とかの回路です。ピンときたことが、ピピピピとつながって、ずっと向こうの灯りがつくみたいな。
八丈島を旅して、回路がつながった。植物染料、酸性染料、藍染め、墨染め。
「ピンクサーキット」(九寸帯) こちらはサーキットシリーズピンクバージョン。経糸、緯糸ともに、国産の絹糸です。水谷ルリ子さんが桑を育て蚕を育てるところから携われた希少な糸も使っています。経糸、緯糸ともに、植物染料(コチニール、墨染め)と 酸性染料の併用です。
「ピンクサーキットスクエア」(九寸帯) サーキットシリーズって、都会的でオトナかわいいでしょ。これはヨーロピアンテイストでもあります。ボーダーを越える帯です。