完全注文制作ONLY ONLYで承りましたさえさまの着物と帯、お仕立て上がってお納めしました。そして、さえさまと、ゆき和さんと私とで、蚕のふるさとである熊本県山鹿市の養蚕農家花井雅美さんを訪ねてきました。
その様子を3分の動画にまとめましたので、上のYouTube、ぜひご覧ください。
さえさまのひと揃い。トータルコーディネートのゆき和さん、冴えてます。
横から。
後ろ姿もいい感じ。 花井さんの桑畑、本当に気持ち良かった!
蚕室にて。
秋蚕さんたちが、ちょうど蔟(まぶし)に上がって、繭を作り終えたところでした。この前日まで、チリチリチリと糸を吐く音がしていたそうです。(私がこの夏、蚕を飼って、3頭が繭になった時は、そんな音全く気づきませんでした。さすが農家さんは違います)
回転蔟(かいてんまぶし)は、一台で約1000頭弱のお蚕さんが入るそうですので、ここに写っている分だけで約6000粒ということです。この分で約10kg、今回譲っていただいた全量となります。
そして、そのほとんど全てを使って、着物一枚、帯一本になりました。お蚕さん、育ててくれた花井さん、ありがとうございます。
熊本日日新聞の取材を受けました。
記者さんと私たち。
さえさまの完全注文制作ONLY ONLYですが、今回、着物と帯の両方を承っております。まずは着物を作りましたので、それに合わせて、最高の一本を作ります。
制作工程は上の動画をご覧ください。下には、織り上がってから撮った写真を載せます。
どんな帯にするかは、さえさまとゆき和さんが我が家にいらっしゃって、織り上がった着物の実物や、私の過去の作品を参考にああでもない、こうでもないと。
私の「パーテーションシリーズ」がお好みであることは、以前から聞いていましたが、色味もよくよく話をして。カラーコーディネートの専門家であるゆき和さんのアドバイス、大いに参考になりました。
糸は、全て山鹿の蚕からいただいたもの。銀河シルクと節糸です。
さえさまは光沢が強すぎない方がお好みなので、製糸の段階で節糸も作ってもらってました。この節糸、木枠に巻く段階で、細い太いに分けておいてました。細めの部分は着尺用。太めの部分は帯用と使い分けるためです。
これが結構手間だったのだけど、やった甲斐あった。着物の方も適度なマット感出たし、帯の方も光はあるけど、フォーマルとは違う感じの、さえさま好みになったと思います。よかった。
節糸は経糸にも緯糸にも入っています。軽さにも繋がったと思います。
山鹿のきれいな空気と水で育った桑を、たくさん食べて大きくなった蚕の糸のみで作りました。メインの糸の区切りに入れた黄色の糸は、銀河シルクを精練したもの。織り方もそこだけ変えて。
この精練した銀河シルクを優しい黄色に染めたもの、さえさまがとても気に入ってくださったので、試し織の時より、太くして、かつ、地のブラッシングカラーズに白場を作っておいて、目立つようにしました。
お太鼓と前柄部分のパーテーション部分は、織り方と染料の濃さや色味を変えて、市松模様にしています。ここが緯糸二丁杼です。
いい感じの艶感。着物がマットな感じですので、きっといい相性と思います。
組み合わせるのが楽しみです。
完全注文制作ONLY ONLYさえさまのお着物、織り上がりました。
織り上がってからやることも結構たくさんあります。
まずしっかり検反。糸が飛び出ているところなどをチェックしてから、酵素で糊抜きをします。35℃のお湯で5時間。終わったら、何度もふり洗いして、しっかりと酵素と糊を洗い落とします。
そして、伸子で張って乾かします。
むむむ、乾いてチェックするも、どうも糊成分が残っている。山鹿の繭、100粒からひいてもらった節糸、思ったより暴れん坊だったので、糊を強めにつけたので、落ち切らなかったようです。
それで、酵素糊抜きを繰り返しました。
2度やって、さっぱりと糊が落ちましたので、次は湯のしに出して、蒸気をあててもらいます。湯のしに出すと、絹が喜んで気持ちよさそうにするように私には見えるのです。
そして、砧打ちをして、糸同士を馴染ませ、穏やかにします。
以上が私のできる全てです。
この段階でお納めなのですが、今回さえさまがお仕立ても望まれ、「ふじ佐」さんにお世話になることになりました。
採寸は我が家でということになったのですが、この日、カラー診断のゆき和さんも同席してくださり、着物談義に花を咲かせながら和気あいあいと楽しい時間を過ごしました。
ふじ佐さん、ゆき和さん、お二人とも布愛、着物愛半端なく、知識経験とも豊富でツワモノって感じでタジタジでしたが、とても勉強になりました。
完成が本当に楽しみです。
織り終わった着物の写真は、116通目のメルマガ【さえさま物語号】にもう少々載ってます。
完全注文制作ONLY ONLY、さえさまのお着物、いよいよ大詰めです。織りの作業は、お蚕さんから始まって、糸にし、色にし、形にしの集大成です。
さえさまの4つのご希望を叶えるために、多くの方の力を結集しました。一人の力では到底できなかったことが、おかげで実現できます。
織っている時は、私一人の孤独な作業ですけれど、さえさまや、関わってくれた多くの方々がまるで一緒にいてくれるような気がしています。
完全注文制作ONLY ONLY、さえさまのお着物、整経が終わった経糸を機に乗せて、織の準備をします。
綜絖という上下に動く装置の穴に糸を入れることによって経糸(たていと)が上下に動くようになります。
それによってできた空間に緯糸(よこいと)を通し、その緯糸を筬で打ち付けることで糸が布に変身するのです。
この綜絖と筬の通し方でどんな布になるかが決まります。複雑な通し方にすればそれはそれで面白い布になるのですが、今回はあえて、一番スタンダードな平織で。
平織は糸の表情が生きるし、経糸と緯糸が直角にぶつかり、しっかりした布になります。さえさまのお望みで、今回お単衣の着物にするので、丈夫さも大事なのです。
この作業をしていると、まるで魔法の種を仕込んでいるような気持ちになります。どんな魔法にも仕込みがあって、それをきちんとこなすことが重要なのだなあ。
完全注文制作ONLY ONLY で承っているさえさまのお着物、糸の準備が出来ましたので、整経作業にかかります。
ここに来るまでに、何度も計算を入れて、よくよく考えます。どんな着物になるかはここで決まってしまいます。合わせて、効率よく、無駄なく作業できるように計画します。
キモは、宮坂製糸さんに作ってもらった100粒の節糸をどのように混ぜ込むか?
少なすぎると「ツルツルした着物でなくて、風合いのある着物を」とおっしゃるさえさまの希望に添えません。
多すぎると、ざっくりしすぎて着心地が悪くなりかねません。それに織りにくくなりすぎます。
ギリギリのラインを狙います。
完全注文制作ONLY ONLYで承っているさえさまの着物と帯のうち、着物がいよいよ始まりました。
デザインは、さえさまのご希望により、遠目には無地、近くでみるとたくさんの色が入っている細い縞。緯糸(よこいと)にもたくさんの色が入っている。
それで10色に染め分けます。糸の種類も考慮して、どの色をどう配置するか、試行錯誤を重ねます。
経糸にも緯糸にも、上州式のスーッとした糸と100粒でひいた節のある糸を混ぜて使うのだけど、どう混ぜるか。それが問題。100粒の節糸が、想定以上に暴れん坊で冷や汗です。使いこなしてこその特注糸。受けて立ちます。
ここでどんな着物になるかが決定します。ですので、慎重に、大胆に。
さえさまの着物と帯になる山鹿の繭、宮坂さんで製糸してもらって、次は撚糸にまわします。
製糸も大事だけど、撚糸もものすごく大事。絹が織れるのは、製糸された糸に撚りがかかっているからです。撚り次第で、糸はガラリと変身します。どんな布になるかも、撚りで変わります。
今回、さえさまのご希望に応えるべく、通常だったら遠慮するような細かい頼み事あり、電話じゃ無理だと糸を抱いて、八王子の森田撚糸さんへ足を運びました。
おそるおそるしどろもどろで話す私に、「ヨシダさん、仕事は情熱だよ」とおっしゃっる森田さん。
そうか、そうだよな。勇気づけられ、もとい、衿を正して、熱を込めてお願いしなおしましたら、あっさりと、「いいですよ」と受けてくださった。
言ってみるものだ。仕事は情熱ということを改めて教えてくださる森田さん、本当にありがとうございます。熱を受け止めてくださるプロがいてくれてうれしい。
以下の写真が、森田さんから戻ってきた、さえさまのための糸。情熱のかたまり。
7種類の細かいロット。
以上が着物用にメインに使うスーッとした糸。上州式。合わせた本数と撚り回数を変えて3種類。
以上がざっくり太めに特別にひいてもらった糸。着物の風合い出しに使う。一部帯にも織り込む予定。甘撚りにしたものと、カバーリングしてもらったもの。
銀河シルク。帯の経糸にも緯糸にも使います。今回2種類に分けて撚ってもらいました。
森田さんから戻ってきた糸たち、着物に使う糸はさっそく精練します。
アルカリで炊いて、ゆっくり糸のベールを脱がせていく。その変化に毎度おどろく。
こうやって、さえさまの糸は揃ったのでした。
精練した糸たち。セリシンの膜を脱いでさっぱり、ぷりぷりしています。
さえさま物語の2話目です。
さえさまのご希望は、熊本の山鹿で育った蚕で、着物と帯を作ること。布の風合いは、ツルツルピカピカではなくて、ざっくりとした手触りがあること。
繭のことは、さえさまからお話もらってすぐに養蚕農家の花井雅美さんにお願いして、2022年の春蚕を特別にキープしてもらってました。
同時に、糸づくりについては、長野県岡谷市の宮坂製糸の社長、高橋耕一さんに電話して、相談に乗ってもらいました。
そしていよいよ製糸していただく日に、花井さんと二人で糸くりの様子を、宮坂製糸さんに見せていただきに出かけました。
織物は糸で決まります。糸は繭で決まります。
花井さんの愛情たっぷりで育った山鹿の繭を、さえさまのご希望にそうように、高橋さんの指示で、糸のひき方を変えて着物用に2種類、帯用に1種類にしてもらいました。
10kgの繭は乾燥させて約4.7kgになり、その繭を製糸すると約2kgになり、撚糸をへて、精練というタンパク質を取り除く作業をすると1.6kgくらいになります。
10kgってたくさんのような感じがしますが、着物と帯になる部分はたった1.6kgなのです。一層大事に余すところなく織らねばと思いました。
新しいONLY ONLYをはじめます。今回のヒロインは「さえさま」です。
「いつか、着物と帯を、山鹿の蚕で、ヨシダに織ってもらうのが夢」とずっとおっしゃっていただいてました。
さえさまと私は古い友人で、一昨年、私が熊本の山鹿の蚕で着物を作った時、いつか自分もと思われたのです。
それが満を持して、いよいよ動き出しました。今回のストーリーは、その夢を実現させるまでの物語です。
まずはじっくりお話を聞きます。ちょうど一年位前、水天宮のホテルのラウンジでお会いしました。
さえさま、夢に描くイメージは、ふるさとの阿蘇に広がるススキ野原とおっしゃいます。同郷ですからよく分かります。あの清々しさ、雄大な大地に吹き渡るそよ風。
が、、、ふむ〜、ススキ野原、、、着物のイメージとしては大変難しいです。つかみどころが無さすぎる、、、この日はお話を聞くだけでお開きとなりました。
その後さえさま、ご自分でネット検索されて、カラー診断を申し込まれました。人伝の紹介などではなく直感的に。行動力に感服です。
当日は私もお付き合いすることに。
お願いしたのは、ゆき和さん。
こんな言い方は適切ではないと思いますが、これが大当たり。色のこと、着物のこと、着方や素材のことまで熟知していらっしゃって、惜しげもなく湧き出るように伝えてくださいます。知っているからこその自由さや、臨機応変さがあります。
我々との相性もバッチリで、和気藹々と濃密な時間を過ごし、すっかり仲間になりました。
ゆき和さんによる、最終的な診断結果は「苅安色」。
か、か、苅安!!苅安はススキの仲間、見かけはススキそっくりです。ここで、阿蘇のススキ野原と繋がるとは心底驚きました!
さえさまとゆき和さんと私、ススキの野原の大草原を三人で冒険するように、物語を紡いで行くことになるのです。