みりさまから、メールをいただきました。
仕立て上がった半襦袢をお召しでお出かけしたと。写真も添えてくださいました。
いいですねえ、春ですねえ。みりさまらしいあわせで、軽やかで素敵です。見ていると、私も幸せな気持ちになります。
振りからちらり。これぞ、着物の醍醐味ですね。そそられます。みりさま、「ふたたび沼にはまっています」だそうです。わかるー。
ネットへの掲載をお願いすると、「美保子さんの活動の役に立つなら」とおっしゃっていただきました。どうもありがとうございます。皆様にご紹介させていただきます。
仕立て上がりを置きでも撮ってくださいました。
お袖、ふた組、あわせをいろいろ楽しめます。もっともっと沼にはまりそうですね。あぶないです。笑
みりさまのお襦袢地、京都の蒸し屋さんから、べっぴんさんになって戻ってきました。大人の可愛らしさ満載って感じです。みりさまを彷彿とさせます。
プリプリツヤツヤ、ふっくらぷくぷくです。さすが、特厚地、しっかりしています。
柔らかく、ドレープが効いて、硬いとか重いとかいう感じはしません。
このくらい地厚さ、お襦袢地としていいかもしれません。私自身もとても勉強になりました。
さてさて、最終の検反をして、撮影をして、さあ、みりさまの元へ旅立ちます。
今回、お仕立ては、みりさまがご自分で頼んでいるところがあるそうで、こちらでお世話はせず、反物のままでのお納めとなりました。
受け取ったみりさまから、「パワーアップしそう!早く仕立てたいですねー。」とメールいただきました。
うふふ、よかった。仕立てあがりが楽しみです。
みりさまのお襦袢、色が決定しましたら、白生地を張って、地入れをして、さあ、いよいよ本番!
上の動画で、一部を早送りでご覧ください(44秒です)。
息を止めて、同じ調子で、たんたんと。たんたんと。ただただ染めます。
染め上げました。
地紋がきれいですね。
下から見るとこんな風です。
乾いたら、染料の定着のため蒸します。その後の、水元、湯のしも合わせ、専門業者さんに頼んでいます。
丹後よりみりさまの白生地が届きました。特注中の特注、特厚地の白生地です。絹ならではの持ち重りがします。
さあ、目指す色に向け、染料を調合しましょう。染料は、狙いを定めて調合し、小さな布にちょっと付けてみて、大体よしと思うレベルに持っていきます。
自分なりに納得したら、大きめの面積に試し染めをやってみます。
染めた布は、実際の仕上げと同じように、蒸して、水元して、伸子(しんし)で張って乾かし、アイロン仕上げ。
写真を撮ってみりさまに送ります。
「赤がもっと鮮やかでもいいかも?」というお返事。
了解。ご希望を踏まえ、染料の調整をします。そして二度目のトライ。
またまた写真に撮って、みりさまに送付。
「いい感じです!けど、もう少し、可能?」「美保子さんの感覚で、楽しく、テンションを上げてください^ ^」
こういう言葉のキャチボールを重ねながら、目指すお襦袢に近づいていきます。
さて、みりさまのお襦袢、生地の厚さと色が決まりました。次は、必要な布の量を出して、発注です。丹後の機屋さん、短尺にも対応してくださるというすばらしさなんです。
みりさま、着物の袖丈は普通だそうですので、お袖の計算は簡単です。1尺3寸の5分ひかえで、折り込むのが1寸5分とすると必要布量は1尺4寸。今回はお単衣仕立てですので、片袖は単純にその倍で2尺8寸。ペアにして5尺6寸。これ、2メートルくらいです。袖をひと組作るのに、布、2メートル。案外長いでしょ。もし無双袖というダブル仕様だったらその倍で、4メートル強。長いわ〜
それで、裾よけの方はと、、、
ここで私は自分が持っている裾よけの大きさを測りました。広幅の生地で作った簡易的なものです。新モスの下の部分、タテは2尺(75cm)、ヨコは3尺4寸(1m38cm)。襦袢地の布の幅は1尺ですから、3.4÷1=3.4 尺。縫い代こみでも4枚はぎで十分足りるわ♪と見積もったのですが、、、、
うーん、なんだか気になる。数字では足りてるけど、、、いいのかな???
それで、おそるおそる仕立て師さんにお聞きすると、、、、
「立て衿は?」
「立て衿!」
初めて聞く単語!裾よけは、普通の襦袢のように身頃が4枚、それに「立て衿」がつくと。
それで自分の襦袢を見てみると、確かに、長着の衽(おくみ)と衿がドッキングしたような部分があります。なるほど、ここが立て衿か。そして、この襦袢の立て衿部分を、裾よけでもわざわざ作るんだ。
へー。
お袖と裾よけの仕立て代をお聞きしたとき、案外お高いなあと思ったのだけど、ここで急に納得しました。下着にまでたっぷりと手間と布がかかっているのだなあ。
着物は贅沢品と言われるけど、私は今までそんなことないよ、単なるよそ行きのおしゃれ着の一種だよって思ってましたが、この見えないところの布の量。それを作る手間、仕立てる手間。
着物は、本当に贅沢品であるかもしれません。それは同時に、文化の結晶であり、継承であり、心の栄養であり、それぞれの美意識、おしゃれ感覚、考え方や生き方、アイデンティティ、心意気。なるほどなあとジーンとしました。簡略の傾向もあると思うけど、それはそれでよし。これはこれでよし。
みりさまのお襦袢、必要布量は、お袖二組と、裾よけで、少々の余分を込みで、2丈3尺。では、余った分は、吉田の研鑽用として使うことにして、丹後には普通に一反、発注しました。
特厚お襦袢地のサンプルが送られてきてから程なく、みりさまが我が家にお越しくださいました。(これ、緊急事態宣言の前の話です。)
あいかわらず、ニコニコ笑顔で、こっちまでニコニコしてしまいます。
三種類の厚さ違いのサンプル地をお見せすると、特厚を即決のみりさま。
そしてお話を詰めていくと、今回のお襦袢のONLY ONLY、普通の襦袢を作るのではなく、替え袖と裾よけを作りたいと。それに、お袖は単衣仕立てで色を変えて二組と。
ほお〜。なるほど。さすが、着物つうのみりさま。襦袢を着ないで、肌襦袢に袖と衿をつけ、下は裾よけという、いわゆるウソツキスタイルですね。お袖は、チラッと必ず見えるので二組作って、着物によって使い分ける。裾よけはめったに見えないので、一つでオッケー。
なるほど、なるほど。
では色を決めましょう。
裾よけと一組のお袖は、山吹、空色、橙色とすんなり決まりました。
そして、お袖のもう一組は、赤を入れたいと。みりさま、お着物や帯は、アースカラーなど、地味目が多いそう。そこにチラッと赤。うーん、ニクいわ。悩んだ末に、赤、山吹、灰と決まりました。山吹色は、裾よけとの共通の色ですので、一体感がでます。
みりさま、こっくりした赤がお似合いになるのですが、赤の染料は濃すぎると染料が不安定になるので、できる限りこっくりさせるということで、合意しました。
みりさまからお預かりしたお襦袢を、早速丹後の機屋さんに送ってみていただいて、電話で詳しくお話を聞きます。
それによると、、、
みりさまのお気に入りの古い襦袢は、パレスという八掛などによく使われる生地であり、今回の生地の綸子(りんず)とは違うから、単純比較はできない。
送ってこられた襦袢の重さを測ると490gであったから、反物の時は500gくらいであったのではないか。しっかりした生地をお望みでしたら、反物で530~550g 程度に仕上げるのがいいと思われる。染織吉田用の襦袢地は、すでにほぼほぼそのくらいの重さで上がっている。
しかし、すでにあるのは薄いと感じられたようだから、比較のために、もう一段地厚にしたものをサンプルとして織るので、触ってみてください。
というわけで、みりさま用に特厚地のサンプルを織ってくださることになりました。これには私もびっくり!
すごいなあ。一反の襦袢地のために、機屋さん、ここまでしてくださるんだ。じーん。私もみりさまのONLY ONLYを叶えるためにもっとがんばろう。
さてさて。しばらくしてサンプルとして送られてきたのが、上の写真の反物にちょこんと乗ってる可愛いのです。
*ヨシダが理解している範囲での今回の襦袢地の説明(機屋さんに教えてもらいました)。
綸子(りんず)というのは生地の名前で、繻子織(しゅすおり)で織ってます。地紋があります。表と裏で光沢が違います。襦袢地の場合、光沢がない方を着た時の外側にするのが通例ですが、好みで逆にしても支障ないです。作り方は、撚りが強い生糸で織って、布になってからセリシンを落とします。その工程で、布が縮み、独特の表情になります。(この精練の仕方が、門外不出のマル秘なんですよ〜〜。)
「アートなお襦袢キャンディ・キャンディ」のサンプル展示をご覧になってるみりさまに、
あら、ご興味ありますか?
と話しかけると、、、うなずかれて、、、、
私、お襦袢何枚も作ってるのだけど、20代の時、一番初めに作ったのが一番よくて、いまだにそればかり着ているの。さすがにもうボロボロだし、色もピンクで今の気分じゃないのだけど、他のはどうしても落ち着かなくて。。。違いは多分、厚さだと思う。このサンプルより、もうちょっと厚いのはできないのかしら?
なんともっと厚くとは!
私はびっくりしました。目から鱗がポロリンコロコロです。着物や帯を作っていると、「もっと薄く、もっと軽く」とは言われること結構あります。時代的にも、薄くて軽いは必須のように思ってました。
それで襦袢に関しても、実はもう一段薄い物はご提案用にすでに作っていたのです。が、もっと厚くとは。。。
生地に関しては、私はどうにもできません。それで、会場からお世話になっている丹後ちりめんの機屋さんに電話をして相談しました。
そうしましたら、機屋さん、
布の厚さというのは織り方も関係してるし、実物を見てみないときちんとしたことは言えないので、送ってくれたら、アドバイスしますよ
と、頼もしいことおっしゃっていただきました!
それで、みりさまから、その理想的な厚さのお襦袢をお借りし、丹後へ送って見てもらうことになりました。
さあ、新しいONLY ONLYストーリー をスタートいたしましょう。
今回のヒロインは「みりさま」。みりさまと私の出会いは、2015年の夏です。みりさま、編集のお仕事をされていて、この年、出版された本に、ONLY ONLYを「世界に一本、私だけの帯を作ってみたら、、、」と題してご紹介くださったのです。とても好評で、重版もされたんですよ。
ちなみにブログではここに載せてます。→☆
着物好きなみりさま、その後も私の展示会を、たびたび覗いてくださいました。お着物の時もあり、お洋服の時もあり、どちらでも自分らしいファッションで、いい雰囲気で、とても素敵な方なんです。ふんわり、カジュアル、ナチュラルな感じ。個性的だけど、行き過ぎない感じ。ご自分に似合うものをよくご存じで、みりワールドを確立されている。いいな〜。
それで、昨年秋の「あわせ」展にも、お越しいただき、再会を喜んでおりましたら、みりさま、どうも「アートなお襦袢キャンディ・キャンディ」に興味があるご様子です。