さとさまの八寸帯、いよいよ織りです。織りは、計画通りに、淡々と進めていきます。
繰り返し、繰り返し、同じように。
無事故で当然なのですが、、、、、なんと途中で糸が一本抜けてしまいました。20センチほどそのまま織り進んで発見しました。
見つけた瞬間、サーっと血の気が引いていきます。
ガーーーン、、、ショック。
一瞬だけ、どうしようかと思ったけど、次の瞬間、「戻ろう」と心を決めて織った糸を解いていきます。半日くらいその作業に没頭です。
戻るのは織るのより100倍くらい時間もかかるし気も使うけど、時間をかけて丁寧に作業すれば、布が糸に戻り、また織り直すことによって完全な布にすることができます。
これはさとさまの大事な帯だから、できることは全部して少しでもいいものにするのです。
さ、仕切り直しで淡々と織り進めます。
ONLY ONLY、さとさまの帯、緯糸(よこいと)を準備します。
経斜文織り(たてしゃもんおり)で織りますので、実は緯糸はほとんど見えなくなります。
それでも色は命。命を吹き込む9色をしっかりと力を込めて染めるのだ。
続いて、染めた糸にごく薄く糊をつけて、乾かして、小管(こくだ)に巻きます。糸を巻いていると、万感の思いが込み上げてきます。蚕を育ててくれた人や、糸を作ってくれた人や、これを織る機会を下さったさとさまや。
そんな思いにつき動かせれながら黙々と巻きます。
さあ、これで準備万端。あとは織りです。
ブラッシングカラーズが終わった、さとさまの経糸(たていと)、上の写真は、機から外して鎖あみにしたところです。
この糸と道具一式ををかかえて、静岡県富士宮市の影山工房へ伺いました。
さとさまのご希望の「曲線」、これを表現するために、どうしてもこちらで仕事させていただきたく、特別にお願いしました。我が家では、帯の長さで糸をしっかりと張る道具だてが設置できないのです。
仕事はなんでも、段取り八分とはよく言いますが、織りこそまさにその通りで、段取りがそのまま仕事に現れます。
影山さんが実践しておられる方法は、その極みだと思っています。
その高度な技術と完璧な道具立てと工房を惜しげもなく提供してくださる影山さんには、本当に感謝しています。
ほら、ずらしで曲線が出てきましたよ。
影山工房では巻き取りまでやらせていただき、再び我が家で仕事再開。
綜絖通し。
筬通し。
これで、ほぼほぼ織るための段取りは終わりです。いよいよ織りにかかります。
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*写真は、新宿高島屋のヘラルボニー展のライブペインティングにて。すごくいい絵で感動しました。
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こんばんは。春の宵、いかがお過ごしですか?
私は先ごろ、新しくできたネット上のコミュニティに入れていただき、楽しく交流しています。
人付き合いも、ネットで出会いリアルに移行するのが、普通になって来ましたね。
私などは、まだまだ慣れず、不思議な感覚がしてしまいます。
みなさまはネットのお付き合い、いかがされていますか?
《 目次 》
1. 五十立志
2. さとさま
3. ヘラルボニー
4. 新しい風
1. 五十立志
そのコミュニティで紹介されていた「中年の本棚」(萩原魚雷著)をいう本を読みました。
今どきの中年についての考察本なのですが、そこに興味深いことが書いてありました。
四十初惑(四十にして初めて惑う)
五十立志(五十にして志を立て)
六十精励(六十にして事に励み)
七十成就(七十にして事を成し遂げ)
八十にして熄む(八十にしてやっと引退する)
ふむー。なるほど、そうかもしれない。
2. さとさま
完全注文制作ONLY ONLY、「さとさま」の帯、制作中です。
この帯は、さとさまが、五十歳になるご自分を祝い、記念し、新しいチャレンジの決意表明としてご注文くださったもの。
そうか、確かに「五十立志」だなあ。
その伴走ができること、心からうれしく思います。
ブログに制作工程を連載しています。
https://www.someoriyoshida.com/category/only-only-注文制作/sato
3. ヘラルボニー
ヘラルボニーという福祉ユニットをご存知でしょうか?私は「コテンラジオ」の番外編で知りました。
主に知的障がい者と言われる方々が描いた絵を元に、ファッションやおしゃれグッズを製造販売している会社です。
新宿高島屋デパートで、ポップアップをしてましたので、行ってきました。
すごく賑わってて、可愛いものがたくさんあって、迷いに迷って、ポーチとエコバッグを買って大満足。
新宿高島屋でのポップアップは、終わってしまいましたが、銀座、八重洲ではやっているようです。大阪の高島屋でもやるようです。
ご興味ある方、おすすめです。
コテンラジオ https://youtu.be/_t3shaSkVtQ(前編)、https://youtu.be/l-udkWiLl5Y(後編)
ヘラルボニー https://www.heralbony.jp
4. 新しい風
ヘラルボニーは新しい動きですが、障がいがある方々が作るアートは、ずっと以前から注目されています。
私が最初に意識したのは、宮城まり子さんの、ねむの木学園かな。グッズもたくさんあって、ハンドタオル持ってたなぁ。
有名なところでは、私が以前勤めていたさをり織も、鹿児島のしょうぶ学園も、とても素敵な動きをされています。
が、このヘラルボニーは、すごく勢いがあって、新しい感じがします。
何が違うのか、、、
ビジネスとして成り立たせ、アーティストに原画使用料を還元しているところでしょうか?
これからも目が離せません。
___________
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きものと帯の注文制作
染織吉田 吉田美保子
ONLY ONLYで取り組んでいるさとさまの帯、デザインが決まりましたので、早速本番に取り掛かります。
これまで試しで小さなピースを、染めて、織って、蒸して、仕上げてを繰り返しておりましたので、本番をやりたくてうずうずします。やはりバーンとした緊張感は特別です。
大事なのは、まずは糸。
糸は、さとさまのご希望の、「きれいめ、上品、シャイニー」を実現するために吟味します。色については冒険要素も入れるので、ここは、ご希望通りに手堅く押えます。
張りのある銀河シルクと、絹らしく光り輝く糸を選びました。(上の写真、右が銀河シルク)
(その後の幾多の作業の記載は長くなりますので割愛します。)
それから、色。ここが勝負どころ。試しでOKとなった染料から慎重に選び取り、たっぷり用意します。
(染料の調合にかかる幾多の作業も記載割愛です。)
そして、デザイン画をもとに織り縮み率を割り出して、あたりをつけて、ブラッシング開始です。
筆で何度も何度も何度も何度も、ブラッシングしていきます。
染料の濃淡は色々です。ごくごく薄いものから、パキッとしたものまで。メリハリをつけて。
タレとか手先とか、ちょっとしか見えないところは、ごく薄い色ながら、しっかり手をかけて。一本の帯の全体が、さとさまのこれからを守るように。
ここがおタイコ。この後ずらしを施して、真っ直ぐな線を曲線にしていきます。
さとさまの帯、どんなふうにしようか、、、、。どうすれば、さとさまの望みを叶えられるのだろう?
50歳の記念の帯、これまで頑張ってきた自分をねぎらい、これからの人生を鼓舞するような。
実はとっても悩みました。
織の仕事は、デザインを決めるまでが第一の山場です。こここそが産みの苦しみで、粘って粘って粘り抜いて、突破口を見つける。光を見つけたら、そこを目指して突き進む。
この一本、私を出し尽くして、さとさまの人生のこれからを応援する帯にしたいと思った。
希望や好みを伺ったとき、幾何学模様の小さい柄が使いやすいなどとおっしゃっていたが、、、、
私はさとさま、案外大胆なのも似合わせるのではないかと踏んでいた。LINEでのやり取りで、柚木沙弥郎の、好きな数点の写真を送ってくれた。透明で躍動感がある。ほら大胆なのお好きなんだ。
直線は苦手、曲線が好きというのも外せないご要望。って織は基本、タテとヨコなんです。カーブをどう表現しようか。
好きな色は、ピンクと茶色。洋服はベージュを着るとのこと。暖色系がお好きとのことだが、インスタを拝見してたら、洋服でお出かけ時に、爽やかな青い布を肩に掛け、真っ青な紐のようなものを手に持って写っている写真発見。わ!すっごく似合う!
この色を提案してみようか?
いや、ブルーのみだと居心地悪いだろうから、ピンクベースで、アイキャッチに茶色。で、ブルーをその上にしっかり目に。
経糸にずらしを入れれば、カーブを描ける。それを大胆に入れたら?
こんな感じでどうだろう?
最終確認ににさとさまとLINEビデオで繋がった。お久しぶりです!同じ時間を共有できるの、いいですね。何より笑顔がうれしい。
ご提案を話すと、お任せしますとの一言。信頼していただけたのだなあ。ますます頑張らないと。
さあ、実作業だ!
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おはようございます。
春がやってきましたね。寒い日もありますが、陽のしっかりとした光が春です。お住まいの辺りはいかがでしょうか?
私は先日、浅草に出かけてきました。
隅田川、アサヒビールの金斗雲、間近に見えるスカイツリー、雷門の大提灯。
新旧こもごも、お江戸やな~~~!関東平野の西側に住んでいる私からしたら、別世界です。
それにほんと着物が似合う街です。私ももちろん着物でお出かけしましたよ。
目的地は、「世界カバン博物館」(鞄メーカーace.の私設博物館)と、「白からはじめる~」の仲間が出品している「染芸展」でした。
どちらもとても見応えあって、改めてモノを作り出す情熱を感じました。
帰りに寄った、地元民に愛されてそうな喫茶店も面白かった。今どき珍しいほど煙草の染みついた昭和なお店で、体に悪そうな鮮やかな緑色の甘ったるいソーダ水をおいしくいただきました。
《 目次 》
1. さとさま物語
2. 着姿ギャラリー
3. きものSalon春夏号
4. e-tax、done!
1. さとさま物語
新しいONLY ONLYに取り組んでいます。お客様を「さとさま」とお呼びさせていただいています。
制作に取り組んでいる間は、私、さとさま一色です。
さとさまは春生まれということもあり、春が大好きとのこと。
今回の帯、春に織ることになって、よかったなあ。きっと春らしい、始まりのときを彷彿とさせる帯になると思います。
私も楽しみに取り組みます。【さとさま物語】、ブログに綴っていきますので、伴走いただければ嬉しいです。
https://www.someoriyoshida.com/12112
2. 着姿ギャラリー
私のサイトの【着姿ギャラリー】のページに、新しくお二人の写真を加えることができました。
ぜひご覧ください。
https://www.someoriyoshida.com/style
3. きものSalon春夏号
ただいま発売中の「きものSalon春夏号」に、半幅帯を載せていただいてます。131ページです。
載った作品は以下の2点です。その下の写真は、一年前の「きものSalon」に載った分です。ブログに紹介してなかったので、すでにご縁いただいているのですが載せます。
半幅帯「シャイニングフォールド」
4. e-tax、done!
今年も無事に、青色申告確定申告、終わりました。
e-taxが使いやすくなっててびっくり。準備までは大変でしたが、電子提出は滞りなくできました。
あー、やれやれ。
これを提出し終わると、やっと春がやってきたと実感できます。
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きものと帯の注文制作
染織吉田 吉田美保子
春ですね。新しいONLY ONLYがはじまります。
今回のヒロインは「さとさま」。さとさまとのお出会いは、ちょうど一年前、京都のラソワさんででした。
ラソワさんでの個展にお越し下さったのですが、その3ヶ月ほど前にラソワさん主宰のオンラインセミナーで私が講師をした時に、受講してくださっていたそうなのです。その時「この人に頼みたい」って思ってくださって、実際に個展に会いに来てくださったとは、とてもうれしく胸が震える思いでした。
その場で、ONLY ONLY のお話しになり、ご希望をお聞きしました。お好きな色やデザインの方向性はしっかり持っていらっしゃるけど、具体的なことは未知数で、一緒に考えていくことなりました。
ラソワの吉澤さんによると、さとさまは、「気骨がある」「迷わない」「ちゃんと歩いている人」とのこと。なるほど。さすが吉澤さん、見えている方です。客観的で冴えたご意見はとても参考になります。
さとさま、その後、お手持ちの着物の端切れを郵送してくださいました。綺麗な手書きのお手紙を添えて。ご自分のこともいろいろ教えてくださったけど、私は、おっしゃっていること以上の可能性を感じました。
50歳の記念の一本にしたいともあり、それならばこそ、今までとは違うものでもいいのかもしれないなどとも思いました。
それから、時は流れ、、、、。昨秋から、試し織を始めました。いくつもいくつも。さとさまとはLINEで繋がって、試作を写真に撮って、どんどんお送りしました。
そうすることによって、私も頭の整理、方向性の整理しつつなのですが、、、実は結構悩んでしまいました。
動画も撮りました。約3分です。よかったらご覧ください。
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*上の写真は森田さん。ご本人の写真、初めて撮らせていただきました。
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109通目のメルマガ【八王子にて号】をお届けいたします。
おはようございます。このところ暖かな日が続きますね。日も伸びて春らしさを感じます。お元気でお過ごしですか?
先日、八王子に行ってきました。東京の西側の、元は「糸へん」産業で大変に賑わい、日本のシルクロードの交差点だった街です。
八王子から、北に行くと養蚕が盛んだった群馬県や埼玉県、西に行くと製糸の岡谷、南に行くと貿易港の横浜、東に行くと大消費地の東京です。
「糸へん」は衰退の一途なのですが、まだまだこの街は魅力的なのです。
今日のメルマガは、この日のことです。よかったらお付き合いください。
《 目次 》
1. 久しぶりに森田さん
2. 見せてもらった!
3. 情熱だよ
4. 支えられて
___
1. 久しぶりに森田さん
八王子に行った目的は、森田撚糸さんへ、先日宮坂製糸さんでひいてもらった生糸を持っていき、撚糸をお願いすることでした。
いつもは、撚りのタイプが決まっているので、宮坂さんから森田さんへ直送してもらって、撚糸してもらって、うちに送ってもらっていましたが、今回は、特別に作ってもらった糸があるので、直接相談したいと思ってのことでした。
___
2. 見せてもらった!
森田さんに今回の糸をお見せして、宮坂製糸さんをお訪ねした話など、しばらく話し込んでいたら、「見ていく?」と言われ、工場内見せていただきました。えー!本当に!!やったー!
先代が、仕事場はむやみに見せるもんじゃないとおっしゃったそうで、今までは見せていただけなかったのでした。
感激しました。
古い木造の仕事場。四方がガラス窓で裸電球。自らよじ登って反動をつけて、モーターを回すと、天井のベルトが回り出し、あちこち連動して、音がしだして共鳴する。
なんか、うまく説明できないけど、宮崎駿の世界でした。
色々説明もしていただき、製糸された糸が、ここで、ボビンに巻かれ、合糸され、撚りがかけられ、やっとやっと使える糸になるんだと実感しました。
___
3. 情熱だよ
今回の持っていた糸は、上州式の60中と300中と、銀河シルクの3種類。
60中は3種類に分けて撚りをかけていただくことは電話で依頼済みだったのだけど、300中と銀河シルクに対しては、一種類だけの撚り方でお願いしようと思っていました。
本当は試したい撚り方があるけど、あまり煩雑になると申し訳ないから。そんな量もないし。お支払いする代金が大した額ではないのは分かっているし(それでも私にしたら大きなお金だけど)。
モジモジしてたら、森田さんが、人を動かすのは情熱だよって言われて、、、、。
うわー、情熱だったら人一倍ありますけどいいのですか?。
で、情熱を込めてお願いし、結局、7種類の撚り方にしていただくことに。
感動した。こんな面倒なこと引き受けてもらって。撚ってもらった糸、最大限生かして、いい織物にしないと申し訳が立たない。
___
4. 支えられて
今回、すごく思ったのだけど、今、機織りして着物を作ることができるのは、仕事として携わってくださるプロの方々のおかげ。養蚕農家さん、製糸屋さん、撚糸屋さん。仕上げを託すのもみんなプロ。
森田さんは、「自分は死ぬまで糸繋いで撚っているよ」っておっしゃってた。「仕事に対する自負はある」とも。仕事見てて、そうだと思う。頼りになるし、任せられるし、信じられる。
で、その糸を受け取った織り手が生きていられるのは、織った着物をお金を出して買って、着てくださる方々が居てくださるから。
着る方に、頼りになる、任せられる、信じられると思ってもらえるようなプロであらねばと思いました。
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きものと帯の注文制作
染織吉田 吉田美保子
(上の写真は、左から宮坂製糸所の高橋社長、私、安達さん、花井さん)
*こちらは、メルマガ《 some ori 通信 》の配信記録です。
↑(宮坂製糸所を見学。これは銀河シルクを引く機械)
染織吉田のメルマガ、《 some ori 通信 》にご登録いただき、ありがとうございます。
108通目のメルマガ【GO TO 岡谷号】をお届けいたします。
先日、約20年ぶりに長野県の岡谷市に行ってきました。目的地は宮坂製糸所さんです。
この旅のそもそもは、一昨年に「山鹿の蚕で着物と帯を作ってほしい」というONLY ONLYをいただいたことが始まりです。養蚕農家の花井雅美さんにお願いして、春繭をキープしてもらっていました。
その後、どんな着物と帯にするかをお客様と話し合い(都合3回お会いしました)、そのご希望を叶えるためには、どんな糸にしたらいいのか見えてきたので、いよいよ繭を宮坂さんに送って糸にすることになり、その様子を見学させていただきに行ったというわけです。
初めは一人でと思ってましたが、花井さんが一緒に行きたいと申し出られ、着物ライターの安達絵里子さんにお声がけするとすぐ調整されました。
現地在住の佐々木千玲さんに大変お世話になり、濃密な日程をスムーズに楽しく過ごすことができました。
↑(左端、佐々木さん)
《 目次 》
1. 蚕糸博物館と宮坂製糸さん
2. 花井さんの繭
3. 一部変更
4. 岡谷という町
↑(真ん中が宮坂会長)
↑(高林館長を囲んで)
1. 蚕糸博物館と宮坂製糸さん
宮坂製糸さんは、今は蚕糸博物館に併設されていて、入館者は誰でも見学できます。公の博物館に、民間の株式会社が併設されているなんてすごい。生きた展示とはこのことですね。
蚕糸博物館では高林館長さんが詳しく説明と実演をしてくださって、製糸の仕組みがやっと飲み込めた感じします。とてもありがたかったです。
私が宮坂さんを見学させていただくのは実は2回目です。
前回はまだ今の形態ではない頃で、古い木造の工場で、床をミシミシ言わせながら歩いた記憶があります。繭が糸になる現場をすぐ間近で見せてくださり本当に感動しました。
まだ独立して間がない頃で、知識も浅く無知同然だったのですが、その時受けた「これだ!」っていう感動が私の染織人生を支えてくれたように思います。
移転され、博物館とくっついて規模も大きくなられましたが、今も、絹糸を織る者にとってとても頼りになる存在であることは全く変わりありません。
今回、20年前にお世話になった現会長の宮坂前社長さんが、お元気そうなお姿で現役でいらっしゃったのも嬉しかったです。
2. 花井さんの繭
花井さんは今回、自分が育てた繭が、宮坂製糸さんでどう思われたかと、緊張の思いもあったといいます。
宮坂製糸所の皆さんは、長年に渡り、品種も多様な多くの繭を見て、触って、糸にしてきた方々ですから。
社長の高橋耕一さんは、花井さんの繭は白くて大きくて、繰りやすいと太鼓判を押されました。新鮮な桑葉をお腹いっぱい食べて元気に育ったのがわかると。
私の目から見ても、花井さんの繭は、ピカピカツヤツヤプリプリしていて、抜群に輝いてました。
これを、生かすのは私の責任。今度は私が緊張する番です。
↑(花井さんの繭を上州式で60中に製糸してもらう)
↑(製糸された糸。これから綛にします)
↑(花井さんの繭の銀河シルクが綛になった。左端は引いてくれた高橋栄子さん。2番目は綛にしてくれた方)
3. 一部変更
今回の製糸は、着物には上州式(という引き方)で60中(という太さ)、帯には銀河シルク(という引き方)で行くことは、お客さまとの打ち合わせで決まってました。
しかし私としては、お客様のご希望の、ふっくらした節や少々の凹凸が入った表情のある反物にするために、もう一捻りいると感じてました。
そこで、持参したサンプル布で説明しながら高橋さんに相談すると、いろいろと可能性を探ってくださり、繭の一部を300中くらいの太さで引いてみようとなりました。そして、なんとその場で早速それをやってくださいました。
同じ上州式の繰り方ですが、繭の粒数を増やし、接緒(せっちょ)のやり方を変えます。こうやって引いた糸を所々に織り込めば、お客様のお望みの、100%山鹿の蚕であることと、糸の表情のある織物であることという二つの希望を叶えることができます。
↑(節多めの太めの糸を引いてくださってます)
4. 岡谷という町
今回、大変お世話になった佐々木千玲さんは、元は、東京でバリバリ第一線で働いていた方です。
それが、地域おこし協力隊で岡谷に引っ越し、その後現地で起業され、地域の方々に頼りにされ活躍していらっしゃいます。
岡谷絹工房のみなさんと一緒に、絹製品を企画製造して、世に出していく。手織りは生産性は低く、世の中の流れは早く、なかなかハードル高いです。いろんなことを飲み込みながらコツコツ頑張っておられる姿に感動しました。
岡谷には、製糸の歴史と今も作り続けている現場あり、佐々木さんのように外から吹き込んでかき混ぜて新たなものを作り出すセンスとエンジンがあり、すごい可能性を感じるところでした。
ご苦労も多いでしょうが、きっと大丈夫と思いました。
↑(佐々木さんプロデュースのノート。表紙に宮坂製糸所さんで手引きした生糸を使っています)
〈今回お世話になった方々〉
TINTt(佐々木千玲さんの会社)
蚕糸博物館の高林館長(佐々木さんが取材執筆した記事でとても読み応えがありました)
花井雅美さんのお蚕ファーム
安達絵里子さんの婦人画報Web版での連載(会員登録が必要です・有料)
↑(諏訪湖のほとりで)
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